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劇作家

  • 2017年01月25日(水) 22:30:00
  • 奮闘記
劇作家が、長い道を歩いていた。

すると、お腹を空かせた子供に出会った。

劇作家はどうしたものかと考えた。



そこへ優秀な料理人が通りかかった。

料理人は子供にサーモンとトマトとオリーブの入ったサンドウィッチを振舞った。

たちまち子供は笑顔になった。






劇作家はさらに道を歩いた。

すると、無実の罪を着せられて泣いている男に出会った。

劇作家はどうしたものかと考えた。



そこへ優秀な弁護士が通りかかった。

弁護士は陪審員の前で男の無実を見事に立証してみせた。

男は弁護士に感謝し、今度は嬉し涙を流した。






劇作家はさらに道を歩いた。

すると、毒蛇に噛まれて苦しんでいる女に出会った。

劇作家はどうしたものかと考えた。



そこへ優秀な医師が通りかかった。

医師は女に血清を注射した。

女は一命を取りとめ、医師にお礼のキスをした。






劇作家はさらに道を歩いた。

正直なところ、歩くのが苦しくなってきていた。

「どうして自分は歩いているんだろう」と考え始めた。

今まで考えたこともなかったのに。

考え始めた途端、歩くのが苦しくなった。

それでも劇作家は歩いた。






すると、友人に会った。

友人は自殺をしようとしていた。



彼は劇作家以上に、歩くことに意味を見いだせなくなっていたのだ。



劇作家は「今度こそ」と思った。

今度こそ。

今度こそ。

今度こそ。



紙とペンを用意し、戯曲を書いた。

友人のためだけに戯曲を書いた。

死んでほしくない。

台詞やト書きの一文字一文字に、想いを込めた。






一晩かけて、劇作家は戯曲を書き上げた。

100枚に及ぶ大作だった。

友人は何も言わずに戯曲を読んだ。

約2時間、二人は言葉を交わさなかった。



友人は最後の一行まで目を通し、一言、

「おもしろかった。」

と言った。






劇作家は安堵した。

安堵の涙が出た。

泣いている自分が照れくさくて、2秒ほど、ほんの2秒ほど、友人から目をそらした。






その2秒の間に、友人は死んだ。






劇作家は歩くのをやめた。

そして、友人の隣で自分も死ぬことにした。






ナイフを取り出し手首にあてがう。

ナイフが小刻みに震える。



ダメだ。

劇作家の頭を、一つの鮮烈な欲求が支配する。

それは懐かしさにも似た、欲求。



劇作家はその時、自分がある重大な過ちを犯していたことに気が付いた。

そうか。

そうだったんだ。



そして、まだ体温が残っている友人の掌を、包むように握った。





ただ、ただ、手を握った。

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コメントを見る(2)

 by い
えほんにもなりそうだ…
 by 河西裕介
>いさん

僕は絵が描けません。誰か描いてほしいです!

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